ぶろちゃ

日常会話のネタになれば幸い

ちょっとずつ、進んでいく。

ある日祖父は50歳になった。

今週のお題「おじいちゃん・おばあちゃん」

 

「お爺ちゃんいくつになったの?」

「うーん…50歳だなぁ」

 

数年前までは90歳だとはっきり言った

 

祖父母の家へ遊びに行ったその帰り

「またね」と言って玄関先まで

手を振りに出てきていた祖父

 

そんな姿も見れなくなった

 

今ではもう孫の名前も

実の娘、息子の名前すら

誰だか分からないらしい

 

認知症だった

 

今年で94になった祖父

年齢による認知症

なってしまったものは仕方がないと思った

 

認知症が発覚し少ししてから

初めて会いに行った時

「誰だったかなぁ…」と言われたのも

いつもの冗談交じりだと思った

 

しかしそのあと家族と祖父母で

一緒に車で外出し私が祖父の乗る

助手席のドアを開けてあげた時

 

「またお会いしましたね」

 

今まであまり見たことがない

丁寧な口調でのお礼

素直な笑顔を向けて私へそう言った

 

心が抉られるようだった

思わず涙が零れ落ちそうになったが

必死に泣くまいと俯いて隠した

嗚呼、もう私が知っている祖父は

どこかへいってしまったのだと

とても悲しくなったのを今でも覚えている

 

祖父が認知症になるなんて思ってすらいなかった

寡黙で過去の事を殆ど語ることがない

そんな祖父と一緒に酒を飲みながら

祖母との馴れ初めや色んな話を聞いてみたかった

 

まだ全然、何も聞いてないよ、お爺ちゃん

 

もっと会話をしておけば良かった

もっと顔を見せに遊びに行けば良かった

 

今更後悔しても後の祭り

祖父に話しかけても反応が薄い

1日の殆どをベッドの上で過ごしている

ヘルパーさんかい?という純粋な問いかけ

 

貴方の孫じゃないですかと

祖母が言っても「そうだっけか…」と

虚空を見やる祖父

 

現在は祖母が祖父の介護をしている

体調が良ければデイサービスにも

通っているようだ

 

認知症になったからといって

悪いことばかりではなかった

 

認知症になって初めて

祖父は歌が好き という事を知った

簡単な暗算ならとても早い

習字も上手い

デイサービスでカラオケがあれば

みんなと一緒に声高らかに歌っているらしい

 

知らなかった

家では喋らなかった祖父が歌好きだったなんて

 

色々と新たな発見の連続で

今までの祖父は我慢ばかりしていたのではと

私は考えずにいられなかった

 

敬老の日

老人達を敬う日

敬うと言っても今の私には

どう接していいのか分からない

きっと会った次の日には私を忘れてしまう

 

でも今を生きているなら

少しでも一緒に居たい

そう思った